「ホルミシス」とは、 何らかの有害性を持つ要因について、 有害となる量に達しない量を用いることで有益な刺激がもたらされることであり、 その要因は物理的、化学的、生物学的なもののいずれかである。例えば紫外線は浴び過ぎれば皮膚がんの原因となり、 また殺菌灯は紫外線の殺傷力によっているが、少量の紫外線は活性ビタミンDを体内で作るために必要であり、 この活性ビタミンDは血清中のカルシウム濃度を調整するものであって、もし不足すればクル病の原因となる。ホルミシスという言葉はホルモンと同様に、「興奮する」という意味を持つギリシア語のホルマオを語源にしている。ホルミシスという言葉が最初に用いられたのは菌類の成長を抑制する物質が低濃度では菌類の成長を刺激することを表現するものとしてであり、 「少量の毒は刺激作用がある」とするアルント・シュルツの法則(Arndt-Schulz rule)の言い直しである。1979年春に東京で開催された国際放射線研究会議では、中国からの発表において「自然放射線の非常に高い地区に住んでいる住民の肺癌の発生率が低い」ことが示されると注目を集め、 スリーマイル島原子力発電所事故の調査委員長であったFabricant博士が興味を示し、 Citizen Ambassadorという国際調査団が調査のために中国に派遣されたことが放射線ホルミシス研究が盛んになる契機となった。1978年、ミズーリ大学のトーマス・D・ラッキーは"Hormesis with Ionizing Radiation(電離放射線によるホルミシス)"という書籍を著し、 このテーマは1980年代に放射線影響の研究において言及され、低線量の放射線照射は生物の成長・発育の促進、繁殖力の増進及び寿命の延長という効果をもたらしうるという放射線ホルミシス研究として注目されるに至った。